研究概要 |
カイコガのフェロモン源探索行動を生成する神経機構の解明を目的として、嗅覚1次中枢である触角葉から前運動中枢である側副葉にいたるフェロモン情報処理神経回路の構造と機能の解析を行った。 まず嗅覚系2次中枢と脳内前運動中枢を中継する神経細胞群を対象として細胞内記録法による単一神経細胞のフェロモン刺激に対する生理応答、三次元形態の解析を行った。その結果、特に前大脳の内側表層部において、フェロモンへの応答性を示す細胞が多く存在することが明らかになった。また他の基本回路の主要領域である、前大脳デルタ領域・側副葉・触角葉と接続関係をもつことがわかった。これらの結果から、前大脳内側部がフェロモン情報処理における基本回路の一部であることが示唆された。 並行して、フェロモン源定位行動の初期相にみられる直進歩行の方向を指令する情報を同定するために、細胞内記録法により側副葉構成神経のフェロモン応答の計測を行い、直進歩行の方向性が左右半球の側副葉における神経集団の活動量の差異によって決定されていると推測される結果を得た。 加えて今後の研究を加速するために、whole cell記録による単一神経細胞の膜電流の解析技術、単離下降性神経細胞からのwhole cell記録による電位固定法の実験技術をカイコガで初めて確立することに成功した。 上記に加えて、本研究の成果に関連して、原著論文を2編(Namiki and Kanzaki., 2010; Misawa et al., 2010)、昆虫の嗅覚情報処理機構を考察した総説を1編発表した。また成果の一部は、日本比較生理生化学会、国際神経行動学会議などの国内外の学会の学術会議において報告した。
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