研究概要 |
カイコガのフェロモン源探索行動を生成する神経機構の解明を目的として、嗅覚系1次中枢である触角葉から前運動中枢である側副葉にいたるフェロモン情報処理神経回路の構造と機能の解析を行った。前年度までに実施した、マスステイニング法により存在が示唆されていたsuperior medial protocerebrum(SMPC)と側副葉を接続する経路について、単一神経レベルの分析を行い、SMPCと側副葉を接続する両側性の神経細胞が存在することを示した。さらに、この神経細胞は触角へのフェロモン刺激時に応答を示すことから、フェロモン情報はこの神経細胞によりSMPCから側副葉へと伝達されていることが強く示唆された。この成果により、嗅覚系高次中枢から前運動中枢への経路が示され、入力から出力にいたる全経路が初めて明らかになった。 並行してフェロモン情報処理におけるキノコ体の機能の分析を進めた。前年度に開発したwhole-cellパッチクランプ法を用いて、キノコ体の主要構成神経であるケニオン細胞の膜特性の分析を行い、情報処理機構の理解に向けた基礎的な知見を集積した(Tabuchi et al., 2012)。また、触角葉投射神経のキノコ体での軸索投射パターンの詳細な解析を行った。その結果、ボンビコール情報を伝達するtoroidの投射神経の投射領域に限定して分枝するケニオン細胞はなかったため、キノコ体はボンビコールのラベルドラインコーディングには関与しない可能性が示唆された(Namiki et al., 2013)。 本研究に関連して4報の原著論文で成果を公表するとともに、国内外の学会において成果の発表を行った。
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