研究概要 |
本研究は,豊かな種多様性を誇る西日本の純淡水魚類相の歴史的・生態学的形成プロセスを,これまでにない大規模な遺伝子データセットと新たな分析手法を駆使して,総合的に解き明かすことを目的とした.(1)主要な純淡水魚種に関する系統地理パターンの解明と比較,(2)現在の分布および地質年代における古地理復元に基づく,主要魚種それぞれの出現予測モデルの構築,(3)さまざまなDNAマーカーと,国内外来種の分布拡大を"実験"として利用することによる,群集構成種の地理的分化・分布域拡大・二次的接触による相互作用の解明と検証,の3項目を実施し,学会発表および論文公表,またその準備を推し進めた. 1.ミトコンドリアDNAを用いた多種系統地理解析:コイ科を中心に約20種に関して,野外試料収集と主としてミトコンドリアDNA部分塩基配列を用いた系統地理分析を行った.特に琵琶湖産魚類について集中的な分析を行った. 2.各魚種の出現予測モデルの構築:多種の魚類分布データ(環境省,国土交通省のデータベース,独自データ,その他)の収集とスクリーニングを行った.それに基づき,現在および更新世後期の地理・気候GISデータを用いた生態ニッチモデリングを行った.各魚種の生態特性と現在の分布および過去の分布推定の結果を比較,整理し,系統地理パターンとともに考察を行った. 3.集団分化・分布拡大・二次的接触後の動態 (1)mtDNAおよび核DNAを用いた統計的推定:mtDNAおよび核DNA(AFLP分析)を併用し,オヤニラミやサクラマス種群を対象として,集団の分化や分布拡大,人為移植を含む二次的接触による遺伝的交流様態を明らかにした. (2)国内外来集団を用いた「実験的」検証:ドンコ,モツゴ,トウヨシノボリ類ほかについて,mtDNAマーカーを用いて人為的撹乱を定量化し,系統地理構造の変化について分析を行った.
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