研究概要 |
本年度の研究成果の概要は以下のとおりである. 1Irr,IRP2におけるヘム結合部位の同定 ヘムの生合成を制御する転写因子Irrや,細胞内の鉄代謝を制御するIRP2の制御機能発現に重要な自己酸化修飾の分子機構を解明するため,その酸化修飾反応の端緒となるヘムの結合部位の同定を試みた.まず,それぞれの蛋白質に対するヘムの結合当量を決定するため,紫外可視吸収スペクトルを用いた正確なヘムの滴定を行い,ヘムの結合当量数をIrrでは2,IRP2では3と決定することができた.Irrの場合には従来から想定されたようにヘム制御モチーフ(HRM)中のCys29の他,C末端側のHisクラスタ領域がヘム結合部位であると推定できた.一方,IRP2においては,ヘム依存生分解(IDD)ドメインのCys201の他にCys120とCys375へのヘムの結合が確認された.しかし,IRP2においてこれらの3つのCysをヘムが結合できないAlaに置換した場合においても,まだヘムの結合が観測されたことから,IRP2におけるヘムの結合部位に関してはさらに検討が必要である. 2酸化修飾を受けていないIrrの単離精製法の確立 Irrにおける酸化修飾部位と酸化活性種の同定には,酸化修飾を受けていないIrr標品を用いる必要があるが,質量分析計を用いた詳細なペプチド分析から,大腸菌で発現させたIrrは既に菌内で酸化修飾を受け,標品として単離精製したときには,その80%以上が酸化修飾された状態であることが明らかになった.そこで,培地として鉄を含まない最少培地を用いて大腸菌でIrrを発現させたところ,酸化修飾を受けた蛋白質は20%以下まで減少することが明らかになった.今後は,本手法を用いてIrrを単離精製し,酸化修飾部位と酸化活性種の同定を行う予定である.
|