研究概要 |
DNAクランプのユビキチン化は,損傷乗り越えDNA合成(TLS)やチェックポイントの活性化など,DNA損傷に対する細胞機能を発動させる重要なトリガーである.本研究では2つのDNAクランプ,PCNA及び9-1-1に注目し,DNA損傷応答におけるユビキチン化シグナルと分子間相互作用を構造生物学的に明らかにすることを目指す.平成21年度は,1)ユビキチン化PCNAの調製,2)PCNAの脱ユビキチン化酵素USP1の調製,3)PCNA変異体の機能解析と構造解析を行った. 1)ユビキチン化PCNAを大量に調製し,ナノフローESI法による質量分析(NanoESI MS)を行った.その結果,3量体PCNAの1箇所あるいは2箇所がユビキチン化されていることを確認した.これは,生体内では必ずしも3箇所がユビキチン化される必要がないことを示唆する結果である.また,未修飾の3量体も存在していることがわかり,純度を上げるために発現系及び精製条件のさらなる検討が必要である. 2)USP1はモノユビキチン化されたPCNAを脱ユビキチン化する酵素である.様々な発現ベクターを試した結果,ヒトUSP1を大腸菌を用いて発現させることに成功した. 3)TLSを阻害する酵母PCNA変異体G178S(REV6-1)を調製し,様々な手法により3量体の安定性を調べた.その結果,REV6-1は野生型PCNAに比べて,3量体の安定性が著しく低下していることがわかった.また,結晶構造解析を行ったところ,酵母REV6-1は3量体リングを形成していなかった.ヒトREV6-1のユビキチン化をin vitroで行ったところ,野生型とほぼ同程度にユビキチン化されることがわかった.以上のことから,REV6-1のTLS阻害は,3量体形成の破綻に起因すると考えられる.
|