研究概要 |
DNAクランプは,DNA複製や修復において様々なタンパク質をDNA上にリクルートする足場タンパク質である.DNAに損傷が生じると,DNAクランプはユビキチン化を受ける.これが,損傷乗り越えDNA合成(TLS)やテンプレートスイッチ(TS)などのDNA損傷トレレランス機構を発動させるシグナルであると考えられている.本研究では2つのDNAクランプ,PCNA及び9-1-1に注目し,DNA損傷応答におけるユビキチン化シグナルと分子間相互作用を構造生物学的に明らかにすることを目指す.平成22年度に行った研究をいかに記す.1)ユビキチン化PCNAの調製系の検討を行った.しかしながら,未だ未修飾の3量体も存在しており,純度を上げるために発現系及び精製条件のさらなる検討が必要である.2)USP1はモノユビキチン化されたPCNAを脱ユビキチン化する酵素である.ヒトUSP1を大腸菌を用いて発現させることに成功したが,発現量が少ないため,結晶化には至っていない.今後,試料調製の条件検討を進めていく.3)TLSを阻害する酵母PCNA変異体G178S(REV6-1)を調製し,その構造安定性を円偏光二色性スペクトルを用いて評価した.野生型PCNAおよびREV6-1それぞれに対し,測定セルを20度から95度まで昇温しながら三次構造の変化を見るために近紫外スペクトルを測定した.その結果,野生型の変性温度は67.7度,REV6-1の変性温度は61.8度であり,REV6-1は野生型PCNAよりも構造が不安定であることが明らかとなった.4)全長ヒト9-1-1を調製するために発現ベクターの再構築を行ったが,発現量は改善されなかった.今後は大腸菌コドンに最適化した遺伝子を合成し,全長ヒト9-1-1の大量調製を進める
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