研究概要 |
DNAクランプは,DNA複製や修復において様々なタンパク質をDNA上にリクルートする足場タンパク質である.DNAに損傷が生じると,DNAクランプはコビキチン化を受ける.これが損傷乗り越えDNA合成やテンプレートスイッチなどの損傷トレランス機構を発動させるシグナルであると考えられている.本研究では2つのDNAクランプ(PCNA及び9-1-1)に注目し,DNA複製におけるユビキチン化シグナルと分子間相互作用を構造生物学的に明らかにすることを目指す.本年度に行った研究を以下に示す. 【UAF1】PCNAの脱ユビキチン化酵素USP1の制御因子であるヒトUAF1の調製を行った.大腸菌を用いて様々な発現条件を検討した結果,UAF1をヒスタグ融合タンパク質として発現させることに成功した。UAF1は,アフィニティーカラム,イオン交換カラム,ゲル濾過カラムで精製した.さらに結晶化スクリーニングを行ったところ,PEGを沈殿剤とした条件でUAF1の結晶化に成功した. 【RAD9】9-1-1のサブユニットの1つであるRAD9のC末端ドメイン270-391残基(RAD9CTD)の構造生物学的研究を行った.大腸菌のコドンに最適化したRAD9CTDをGST融合タンパク質として発現させ,アフィニティーカラム,イオン交換カラム,ゲル濾過カラムで精製を行った.得られた試料を用い,X線小角散乱実験を行い,散乱曲線からクラツキープロットを計算した.また,遠紫外CDスペクトルを測定した.それらの結果から,RAD9CTDは100残基を超える大きさを持つが,一定の構造をとらない天然変性タンパク質であることが明らかになった.RAD9CTDは高度にリン酸化修飾を受ける.したがって,RAD9CTDが天然変性状態であることは,リン酸化修飾には都合がよい構造であるといえる.
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