魚油に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)に代表されるω3系脂肪酸には、抗炎症作用をはじめとする健康増進効果が知られている。しかしながらこれらの脂肪酸がなぜ体によいのか、分子レベルの解明は非常に遅れている。そこで本研究では、ω3系脂肪酸の代謝および生理的機能を分子レベルで解明することを目的とした。 これまでにω3脂肪酸合成酵素のトランスジェニックマウス(fat-1マウス)を用いた解析から、ω3脂肪酸の代謝系が抗炎症作用に関わっていることが遺伝学的に示唆されていた。そこで本年度の研究において、高速液体クロマトグラフィー・タンデムマススペクトロメトリー(LC-MS/MS)を用いたω3脂肪酸代謝物の網羅的メタボローム解析を行った結果、これまでにfat-1マウスの体内からEPAとDHAそれぞれに由来する新規代謝物を複数見いだすことに成功した。そこでこれら新規代謝物について酵素反応を利用したin vitro合成を行い、それぞれについて生物活性を評価した。その結果、マウスにザイモザンを腹腔内投与することで惹起される急性腹膜炎における初期の好中球の浸潤を強力に抑制する活性を有する抗炎症性代謝物を同定することに成功した。
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