本年度は主に以下の成果が得られた。 1) HNK-1糖鎖によるGluR2の表面発現量の調節機構 マウス脳を生化学的に分画して解析したところ、AMPA型のイオンチャネル型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)サブユニットの一つGluR2上にHN-1糖鎖が発現していることが明らかとなった。GluR2はAMPA受容体の輸送を制御する重要なサブユニットであり、細胞膜表面と細胞内プールの間を積極的に往来することで細胞表面でのAMPA受容体の存在量やシナプス伝達効率(シナプス可塑性)を調節することが知られている。そこで、初代海馬培養神経細胞を用いてHNK-1糖鎖がGluR2のエンドサイトーシスに与える影響について検討を行った。その結果、GlcAT-P欠損神経細胞ではGluR2のエンドサイトーシスが増加しており、それに伴い表面上のGluR2量も減少することが明らかとなった。 2) HNK-1糖鎖の発現調節機構 HNK-1糖鎖生合成酵素であるグルクロン酸転移酵素は糖鎖の末端に存在するガラクトース残基にグルクロン酸を転移する。昨年度の解析の結果、脳内ではいくつかのガラクトース転移酵素が存在するにもかかわらず、B4GalT2の遺伝子欠損マウスにおいて脳内でのHNK-1糖鎖がほとんど消失していることを明らかにした。そこで、何故B4GalT2の遺伝子欠損マウスでHNK-1糖鎖の消失が引き起こされるのかについて解析した結果、このB4GalT2が脳内でGlcAT-Pと分子複合体を形成していることが明らかとなった。またその相互作用は非常に特異的であり、B4GalTファミリー内で最も相同性の高いB4GalT1とは相互作用しないことも明らかとなった。以上の結果から、B4GalT2とGlcAT-Pとの特異的な分子複合体がHNK-1糖鎖合成に重要であると考えられた。
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