研究概要 |
ホルモン、神経伝達物質、匂い物質、味物質、光など数多くの細胞外のシグナルは細胞膜表面に存在するGタンパク質共役受容体(GPCR)を介して情報を中に伝え、様々な細胞応答を引き起こす。GPCRはヒトにおいて千種類近く存在することがゲノム解析より明らかとなっているが、未だリガンドが見つかっていないオーファン受容体が200種類以上存在する。昨年までの研究成果を継続発展させるために、オーファンGPCRに属するGPR56,Latrophilin1,LGR5に対するモノクローナル抗体や種々の変異体の作成を進め、これらのGPCRの構造と機能の解析を行った。その結果、ヒトGPR56を介してヒトグリア腫細胞U87の遊走を阻害するマウスモノクローナル抗体が2種類得られた。その阻害効果はGq特異的な阻害剤YM-254890処理により抑制されることが判明した。次いで遊走阻害効果を示す抗体による細胞内カルシウムの上昇が認められた。先にマウスGPR56を活性化する抗体による神経前駆細胞の遊走阻害はG12/13→Rho経路を介することを明らかにしていたが、ヒトグリア腫細胞の遊走阻害においては異なる細胞内情報伝達系が働いていることが示唆された。ヒトGPR56にはいくつかのバリアントがあるため、その構造上の差異が機能に関係するかどうか、バリアントやヒトとマウスのGPR56キメラを作成し、それぞれの機能を調べている。一方、細胞外ドメイン(ECD)を欠損したGPR56ΔECD,Latrophilin1ΔECDが恒常的活性型として働き、Latrophilin1ECDを共発現させるとそれらの活性が抑制されることが判明した。異なるAdhesion GPCRの別々のドメイン間が相互作用してシグナルを形成している可能性が示唆されたため、さらに検証するためにLatrophllin1ECDタンパク質の調製を行った。またLGR5のECDリコンビナントタンパク質を調製し、マウスに免疫することでLGR5ECDを認識する抗体を産生するいくつかのハイブリドーマを得ることに成功した。今後、これらのツールを用いて新規GPCRファミリーの活性化機構と生理機能が明らかになることが期待されます。
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