研究概要 |
近年、申請者らは、糖鎖遺伝子を用いて細胞の糖鎖を人為的に改変して細胞の性質を変換させる手法を用いて、糖鎖が単なる飾りではなく、さまざまな生物機能の発信源であることを明らかにしてきた。例えば、N-アセチルグルコサミン転移酵素V(GnT-V)を過剰発現させると実験的にもがん細胞の転移が促進することに対して、GnT-Vが作る糖鎖構造を、別の糖鎖遺伝子GnT-IIIの過剰発現によって糖鎖工学的に破壊すると、がんの転移が著しく抑制される。これらの変化は、糖タンパク質である接着分子インテグリンの機能改変によるところが大きいと考えられてきた。面白いことに、GnT-IIIはインテグリンの機能を制御することだけではなく、糖鎖を介してインテグリンと増殖因子受容体の超分子複合体形成にも影響を及ぼすことが最近明らかとなった(Kariya,Y.,et al.,J.Biol.Chem.285:3330-40,2010)。また、申請者らは、高密度培養システムを用いて細胞間接着によって特異的にGnT-IIIの発現誘導機構が正常乳腺上皮や乳がん細胞ともに存在することを確認した。驚いたところ、E-カドヘリンのアドヘレンス・ジャンクションを形成する一員であるβ-カテニンをノックダウンすると、予想に反してGnT-IIIの発現が上昇した。その結果は、細胞一細胞間接着の以外にもGnT-IIIの発現の調節機構が存在することが示唆された。今後、GnT-IIIの発現誘導機構を明らかにすることと同時に、細胞一細胞間接着と細胞基質間接着における糖鎖遺伝子の発現変化および糖鎖の本質的な機能の解明を目指す。
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