研究概要 |
(作用研究:性ホルモンによるスパイン増減)男性ホルモンであるテストステロンとジヒドロテストステロン(DHT)10nMを海馬CA1領域に2時間作用させると、急性的に神経スパイン(後シナプス)が増加した。海馬スライスの単一神経に蛍光色素を注入して可視化し、スパインの構造変化を共焦点顕微鏡像で追跡解析した。small-head(0.2-0.4μm), middle-head (0.4-0,5μm),large-head (0.5-1.0μm)と分類すると、DHTはlarge-headスパインを増加させたが、テストステロンはsmall-headスパインを増加させた。このように同じ男性ホルモンでも、作用に差があることを発見した。1個の神経にも数万個以上のスパインが存在するので、画像のヘステンソル解析とスケールスペース法に基ずくアルゴリズムを使用した、世界的に全く新しい自動解析プログラムSpiso-3Dを開発し、スパインの大量解析に成功した(Mukai et al., 2011, Cerebral Cortex)。このスパイン増加作用は、ホルモン補充療法によるAlzheimer型痴呆(神経シナプスの減少)の改善機構の分子論的な根拠を与えるものである。男性ホルモンは脳由来の神経スパインの急性的成長因子であることがわかった。選択的阻害剤を用いることで、スパイン増加がMAPK, PKA, PKC系で駆動されているという、信号伝達系もわかった。 (合成研究:コルチコステロイド)過去20年以上誰も成功しなかったが、我々の最近7年間の努力で、コルチコステロンも(副腎皮質とは独立に)海馬のグルタミン酸神経が合成する、ことを証明できた。「プレグネノロン→プロゲステロン→デオキシコルチコステロン(DOC)→コルチコステロン(CORT)経路」で合成する、「3β-HSD→P450(C21),P450(2D4)→P450(11β)」が海馬神経に存在することを解析した。特に脳には存在しないと思われていたP450(C21)(DOC合成酵素)が神経に極少量存在することを、プライマーの設計を改善することで、発見した。免疫抗体電子顕微鏡でもP450(C21)がシナプスやミクロソームにあることを同定した。P450(11β)もグルタミン酸神経のシナプスやミクロソームにある発見した。この仕事は、PLoS ONEに受理されつつある。
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