研究概要 |
(作用研究:ストレスホルモンによるスパイン増減)コルチコステロン10,100,200,400,1000nMを海馬CA1領域に1時間作用させると、急性的に神経スパイン(後シナプス)が増加した。海馬スライスの単一神経に蛍光色素を注入して可視化し、スパインの構造変化を共焦点顕微鏡像で追跡解析した。small-head(0.2-0.4μm),middle-head(0.4-0.5μm),large-head(0.5-1.0μm)と分類すると、濃度が低い10,100,200nMではsmall-head,middle-headスパインを増加させた。濃度の高い400,1000nMではlarge-headスパインを増加させた。このように同じコルチコステロンでも、濃度依存的に作用に差があることを発見した。更に、このスパイン増加作用は、選択的阻害剤を用いることで、スパイン増加がMAPK,PKA,PKC系で駆動されているという、信号伝達系もわかった。この研究はこの仕事は、PLoS ONEに受理された(Komatsuzaki et al., 2012)。1個の神経にも数万個以上のスパインが存在するので、画像の2次微分に基ずく、世界的に全く新しい数理解析プログラムSpiso-3Dを開発し、スパイン頭部直径の分布の詳細解析に成功した(Mukai et al., 2011,Cerebral Cortex)。ストレスとは呼べない非常に濃度の低い10,100nMでコルチコステロンの作用を見つけられたのは、Spiso-3Dによる、スパイン頭部直径の分布の詳細解析のおかげである。 (合成研究:コルチコステロン)過去20年以上誰も成功しなかったが、我々の最近の努力で、コルチコステロンも(副腎皮質とは独立に)海馬のグルタミン酸神経が合成する、ことを証明できた。副腎皮質を摘出したラットの海馬で、質量分析により、10nMのコルチコステロンが存在することを発見したのである。また代謝実験で、「プレグネノロン→プロゲステロン→デオキシコルチコステロン(DOC)→コルチコステロン(CORT)経路」での合成を見出した。合成酵素のmRNA解析と抗体染色を用いて、「3β-HSD,P450(C21),P450(2D4),P450(11β)」が海馬神経に存在することを見出した。特に世界的に脳には絶対存在しないとされてきたP450(C21)(DOC合成酵素)が神経に極少量存在することを、プライマーの設計を改善することで、発見した。高感度の免疫抗体電子顕微鏡でもP450(C21)がシナプスやミクロソームにあることを同定した。P450(11β)もグルタミン酸神経のシナプスやミクロソームにある発見した。この仕事は、PLoS ONEに掲載された。
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