研究概要 |
リボソームは2つのサブユニットから構成され、mRNAの5'末端から3'末端方向へと一方向に運動することにより正確な翻訳が行われる。しかし、その一方向性のメカニズムは解明されていない。本研究では、光ピンセットを用いて大腸菌のリボソーム小サブユニット(30Sサブユニット)とmRNA間の相互作用力(破断力)を引っ張る方向を変えながら一分子レベルで測定し、相互作用の方向依存性を検討することから、リボソームの一方向性運動のメカニズムを解明することを目的とした。このために、16S rRNAにループ配列を導入した30Sサブユニット(C68変異体・F68変異体)と5'末端または3'末端をビオチン化したmRNAの複合体を、ビオチン化BSA・ストレプトアビジンを介してガラス基板に固定した。また30Sサブユニットには、変異ループに相補的な配列を持つオリゴヌクレチドを介して直径1μmのビーズを結合させた。このビーズを光ピンセットにより捕捉し、ステージを一定速度で動かすことで30S-mRNA複合体に負荷を加え、両者の結合を破断した。mRNAの5'末端を固定端とした時はリボソームの進行方向に負荷が加わり、3'末端を固定端とした時は進行方向とは逆方向に負荷が加わることになる。同様の測定を、開始tRNAや50Sサブユニットを加えた複合体についても行った。最初に30S(C68変異体)を用いて、(1)30S-mRNA複合体(2)30S-mRNA-tRNA^<tMet>複合体の破断力の方向依存性を調べた。破弾力は、それぞれ8.04pN、16.2pNとなり、3'末端を固定端とした時の方が、5'末端を固定端とした時に比べ破断力が7.8pN大きくなった。次に、30S(F68変異体)を用いて30Sの異なる場所に力を加え、破断力測定を行った結果、それぞれ143,18.3pNとなった。30S(F68変異体)を用いた複合体でも、逆方向負荷の方が順方向負荷に比べ大きくなることが確認された。相互作用に方向依存性がリボソームの一方向性運動を生み出している可能性が示唆された。
|