バクテリアのタンパク質合成においてinitiation factor 2(IF2)は重要な役割を果たしている。IF2はinitiator tRNAをリボソームの小サブユニットに運んできて、大サブユニットの結合を促進する。大腸菌の無細胞翻訳系、全反射蛍光顕微鏡と光ピンセット装置を組み合わせたシステムを用い、IF2の存在下、非存在下で1分子のリボソームとmRNAからなる翻訳の初期過程にある複合体の破弾力を測定した。IF2非結合リボソーム複合体の破断力測定の結果、開始tRNAの結合により30S-mRNA間相互作用が安定化されることが示された。また、IF2結合リボソーム複合体の破断力測定の結果、50S結合後のIF2によるGTP加水分解により、30S-mRNA間相互作用が安定化されることが明らかになった。特に後者は重要な知見であり、IF2が引き起こすGTPの加水分解と構造変化により、IF2が結合していないリボソーム複合体においては得られない安定化が得られることが示されたことになる。これまでに明らかにされていたIF2の主な機能は、開始tRNAの30Sサブユニットへの結合親和性を高めること、そして50Sサブユニットの結合を促進することであった。本研究は、30S-mRNA間相互作用という新しい視点でIF2の機能を調べることで、IF2の新たな機能を見出した。IF2は最終的に形成される70S翻訳開始複合体を安定化することで、効率的な翻訳開始に寄与していることが明らかになった。
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