昨年度の研究でキネシン二量体の原子構造モデルを構築したが、その成果を元に従来広く受け入れられていた運動モデル(ネックリンカードッキングによるステップ)ではなく微小管への結合にバイアスがかかることによって前方へステップするという新たなモデルが示唆された。本年度はキネシンが前方へステップするのにネックリンカーの頭部への結合(ドッキング)が必要であるか否かを実験的に検証するために、ネックリンカードッキング依存的なステップと非依存的なステップを交互に取るような変異体キネシンを作製し、その運動を一分子計測法によって観察した。キネシンの頭部2つを遺伝子上でタンデムにつないだタンデムキネシン(N末側頭部のネックリンカーはC末側頭部につながっているが、C末頭部のネックリンカーはつながっていない)を作製し蛍光一分子観察を行ったところ、微小管上を連続的に運動する様子が観察されたが、その運動速度は野生型の1/4程度であった。また片方の頭部に量子ドットを結合させその動きを観察したところ16 nmステップを示し、2つの頭部を交互に動かして運動していることが裏付けられた。次に一分子FRET法を用いて運動中の2つの頭部間の相対位置関係を調べたところ、N末側頭部が前であるような両足結合状態をとる時間が長く、その反対のC末側頭部が前方であるような両足結合状態をとる時間は短かった。これらの結果は、ネックリンカードッキング依存的なステップよりも非依存的なステップの方がより効率的であり、野生型キネシンのステップは主にネックリンカードッキング非依存的な仕組み(バイアス結合モデル)によって行われていることを示唆するものである。
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