研究概要 |
本研究では、変性した蛋白質の構造と運動特性を調べることを目的として、観測の時間分解能を10マイクロ秒程度まで向上させるなどの申請者が開発した一分子観察技術の高度化を行う。また,開発した装置を用いて、シトクロムc、βラクトグロブリンなどのタンパク質の一分子観測を行い、折り畳み現象の解明を目指すことを計画した。本年度は、始めに、マイクロ流路を用いた一分子観察法のS/Nの向上と時間分解能の向上を実施した。マイクロ加工技術によって製作した内径の小さなフローセルに、励起光を集光できる光学系を構築した。その結果として、10マイクロ秒オーダーまで一分子観察の時間分解能を向上させることができりた。また、開発した装置を用いて、一分子観察法によるβ-ラクトグロブリンの折り畳み反応スキームの確定を行った。β-ラクトグロブリン(β-LG)は、折り畳んだ状態において主にβ-バレルにより構成される蛋白質である。折り畳み状態(N状態)、変性状態(U状態)、折り畳み中間体(I状態)の三つの状態を区別できるように蛍光色素でラベル化したβ-LGを使って、折り畳み過程を一分子レベルで観察した。一分子から得られる時系列データを利用し、三状態の速度論的な役割を推定した。最後に、変性温度の異なるシトクロムcの変性状態における運動の時定数を観測した。具体的には、変性温度が108℃のPH cyt c、130℃以上のAA cyt cなどについて、一分子観測を行い、運動の時定数を決定できた。
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