研究概要 |
チトクロムc酸化酵素のプロトン(H^+)輸送経路として提案されている3つの経路(D-, K-, H-pathway)のひとつD-pathwayは、細菌酵素のX線結晶構造解析と変異体解析により、水形成用とポンプ用のH^+を輸送すると提唱されている。この経路は、細菌とウシの酵素間で酷似し、しかも機能に必須のアミノ酸残基が保存されている。したがって、ウシ酵素のD-pathwayも同じ機能をもつと示唆されている。一方、ウシ酵素のX線構造と変異体解析によりH-pathway H^+ポンプ機構が示唆され、対立している。本年度、D-pathway H^+ポンブ説を支持する解析結果を与える細菌酵素での変異部位に対応した全ての変異をウシ酵素で検討し終えた。細菌酵素では酸素還元活性を阻害しないでポンプ活性を失活させるが、ウシ酵素では、いずれの変異も、ポンプ活性に影響を与えなかった。したがって、D-pathway H^+ポンプ説は支持されなかった。この結果は、D-pathwayの機能がウシと細菌とで異なることを示唆する。構造によって機能が決定されるとの構造生物学の前提への桃戦である。H^+ポンプ機構に於けるアミノ酸残基の役割を直接検討する手段に振動分光法がある。この解析には部位特異的同位体標識化チトクロムc酸化酵素標品が必須であるため、これを可能にする無細胞タンパク質合成系で細菌の酵素を発現する系を開発している。本酵素を大腸菌無細胞系で合成し、大腸菌の膜画分に機能発現させることに成功した。精製酵素標品は、正常なSoret/visスペクトルを示し、ヘム当りのチトクロムcからの電子伝逹活性は142±15sec^<-1> (n=6)であり、野生型酵素の浩活性値236±21sec^<-1> (n=6)にほぼ匹敵した。無細胞で確実に正常酵素標品を得る事ができ、収量は、合成されたタンパク質の約0.1%であった。
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