今回の研究課題では枯草菌やBacillus clausiiが持つべん毛モーターについて、(1)一つのモーターユニットのトルクを算出することにより、モーターの性能を解析すること、(2)枯草菌のべん毛固定子MotAB、MotPSと相互作用する回転子複合体の構成タンパク質であるFliGに着目し、べん毛モーターの回転に関与するアミノ酸残基を特定すること、(3)B.clausiiが持つユニークな環境pH応答型固定子MotABと枯草菌が持つNa+駆動型固定子MotPSについて、大量精製系を確立してX線結晶構造解析を行い、モーターの回転機構を原子レベルで解明することを計画している。 2010年度は、(1)では、枯草菌においてビーズアッセイ法を用いて枯草菌野生株および枯草菌のmotAB遺伝子とmotPS遺伝子を欠損して運動性が欠損している株にコントロールとして枯草菌のMotAB発現株(H+のみを共役イオンとして利用できる)と枯草菌のMotPS発現株(Na+のみを共役イオンとして利用できる)を用いて、べん毛のモーター特性を4分割光センサー顕微鏡で測定した。培地、測定用バッファーのどちらを使用した場合も枯草菌のべん毛モーターが2種類の固定子を含むハイブリッドモーターであることを示すデータを得た。(2)では、枯草菌でこれまで明らかにされていないべん毛モーターの回転子と固定子の回転相互作用に関与するアミノ酸残基の同定を部位特異的変異導入法により作成した変異株を用いて試みた。昨年度の問題点として変異が入った固定子の膜への発現が低下もしくは、ウェスタンブロットで検出できないといったことがあったが、今年度は、培養条件などを工夫することで固定子の膜への発現を確認することができた。現在、野生型の固定子をもつ株に部位特異的変異導入をした固定子を共発現させるドミナントネガティブ実験を行うための変異株の構築を行っており、先行して取得できた株に関しては、遊泳速度の解析を始めている。(3)では、先行して枯草菌のMotPSについて大量精製系の確立と結晶化への試みを進めている。
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