真核細胞の生体膜では、リン脂質の分布が脂質二重膜の細胞質側層とその反対側の層で大きく異なること(リン脂質の非対称性)が知られている。しかし、その生理機能については多くが不明である。本研究では、出芽酵母をモデル系に用いて、リン脂質非対称性を制御するタンパク質の機能と制御機構について解析し、以下の成果を得た。 (1) Cdc50-Drs2フリッペースによる輸送小胞形成機構の解析 Cdc50-Drs2フリッペースは脂質を細胞質側層へ輸送することにより小胞形成を促進すると考えられている。F-boxタンパク質Rcy1は、触媒サブユニットDrs2のC末端領域に結合し、この結合はDrs2の機能発現に重要であることが示唆されている。今回、Drs2のC末端領域の点突然変異体を新たに取得し、Drs2とRcy1との結合がCdc50-Drs2による輸送小胞の形成に必須であることを明らかにした。 (2) 細胞膜における脂質非対称性の形成機構の解析 フォスファチジルセリン(PS)特異的に結合するGFP-Lact-C2を用いた解析から、細胞膜では細胞質側層にPSが局在しているが、ゴルジ体やER膜の細胞質側層にはPSが存在しないことが明らかになっている。今回、PSはゴルジ体での分泌小胞形成の際に内腔側層から細胞質側層へ輸送されること、また、この輸送には既知のフリッペースは関与しないことが示唆された。一方、酵母の全遺伝子を網羅的に破壊した変異株シリーズにGFP-Lact-C2を発現させ、その局在異常を示す株を検索した。その結果、エンドサイトーシスを経て初期および後期エンドソームから後期ゴルジ体へ向かう小胞輸送経路の変異株では、PSは内膜系の細胞質側に露出されることが明らかとなった。PSは、これらの小胞輸送経路で細胞膜へとリサイクルされることにより、その細胞膜特異的な局在が維持されるものと考えられた。
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