研究概要 |
ゲノムDNAにおける特異的なDNAメチル化修飾などのエピゲノム情報が、細胞分裂を通して次世代の子孫細胞へ継承する機構は、動物・植物が正常に胚発生、恒常性維持を達成するための基盤となる重要な分子機構である。本研究では、DNAメチル化継承の主要酵素であるDNAメチル化酵素DNMT1に着目し、細胞核内における作用領域への局在調節に焦点をしぼり、その分子機構を明らかにすることを目的とした。DNMT1蛋白質は1,620アミノ酸からなり、蛋白質高次構造変化が酵素活性調節に重要であることが知られている。しかし、従来のDNMT1局在調節の機能解析は、比較的大きなアミノ酸領域の欠失や、単離ドメインの挙動から結論がだされており、蛋白質構造異常による二次的影響やドメイン問相互作用の欠如を反映していた可能性がある。そこで我々は、蛋白質高次構造への影響が最小限の変異である1アミノ酸置換によって、DNMT1局在調節に必須の機能ドメインを同定し、細胞内局在調節機構の素過程を明らかにすることを計画した。進化的に保存されたドメイン構造を中心に約400箇所の点変異を系統的にDNMT1蛋白質へ導入し、細胞内局在における効果を検証した。その結果、DNMT1細胞内局在に影響を与えるドメイン、およびその機能に必須なアミノ酸残基を複数箇所同定した。その中のひとつN末端領域に位置するRFTドメインは、DNMT1のクロマチン結合に必須であることが、細胞内局在解析および生化学的細胞分画により明らかになった。詳細な解析により、RFTドメインと酵素触媒ドメインが協調的に相互作用することによってDNMT1細胞内局在が調節されることが示唆された。最近明らかにされたDNMT1三次元構造の知見と考え合わせ、DNMT1細胞内局在制御においても、DNMT1分子内相互作用および蛋白質高次構造変化が機能発現に重要であると考えられる。
|