研究概要 |
神経回路を作るには,軸索ガイダンス分子が適切に分布することが必要である.本研究では,ガイダンス分子の分布を規定する新しいメカニズムとして「受容体による提示と抑制」を検討した.ガイダンス分子の代表例として進化的に保存されたガイダンス分子であるNetrinを取り上げ,ショウジョウバエを用いてNetrinの誘引性受容体であるFrazzledと反撥性受容体であるUnc5がNetrin分布に及ぼす影響を解析した.その結果,FrazzledがNetrinを軸索上に提示するのに対し,Unc5はNetrinの提示を抑制することを見いだした.Unc5特異的なNetrin提示抑制作用はUnc5の細胞外ドメインによって担われていることがわかり,Unc5は既知のFrazzled-Unc5の相互作用とは異なる様式でFrazzledの提示作用を抑制することが明らかになった.ドメインマッピング実験により,Netrin提示抑制に必要なモチーフとして細胞外ドメインのIgモチーフを同定した.さらに,Unc5によるNetrin提示抑制の生理的意義を解析するために,unc5変異系統を用いてUnc5が存在しないときに他の軸索のガイダンスにどのような細胞非自律的な影響が出るか調べた.ショウジョウバエ胚中枢神経系では,Unc5は中枢から末梢への出口の一つであるSNtと呼ばれる軸索束で高発現している.unc5変異系統ではSNt領域にNetrinの異所的局在が生じ,この状況下では,Unc5を発現する後続軸索が正常にSNt経路を伸長できないことを見いだした.これらの結果から,先行軸索が発現するUnc5がそのNetrin提示抑制活性を用いて後続軸索のためのガイダンス場を作っていると考えられる.
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