研究課題
本研究では、初期胚における中枢神経系発生の最も初発段階であるが、未だに不明な点の多い「多能性細胞から未分化外胚葉を経て、神経外胚葉(神経前駆細胞)へ分化する過程」の分子制御機序の解明を目指し、その過程を制御する分化決定因子の解析を行なった。そのため、まず、多能性細胞(マウスES細胞)の試験管内分化系を用いて、神経分化のごく初期に発現しだす転写因子をシステム生物学的手法で探索し、ZnフィンガータンパクZfp521を同定した。このZnフィンガータンパクは核内因子で、ES細胞分化系のみならず、in vivoのマウス初期胚でも神経前駆細胞に特異的な発現を示した。Zfp521の強制発現はES細胞の培養系で神経分化を強く促進し、さらに通常は神経分化が強く抑制されるBMP4存在下でも神経分化を惹起することが明らかとなった。逆に、BMP4存在下では、Zfp521の内因性の発現は強く抑制されていた。さらにshRNA法により、その機能を阻害すると、ES細胞からの神経分化が強くされたが、内胚葉や中胚葉などの他の細胞種への分化は正常に起こることがわかった。これらにより、Zfp521が未分化外胚葉から神経前駆細胞への分化を推進するのに必須の制御因子であることが明らかとなった。Zfp521が、なぜ神経外胚葉特異的な発現をするのかについては不明であったが、その上流因子の制御メカニズムに、Oct6などのepiblastで発現する転写因子群との関係が強く示唆された。また、下流候補遺伝子についても、これまでにSox3はその直接的な下流遺伝子の一つであることが明らかとなったが、その発現誘導にはp300/CBP活性が必要であった。これらにより、Zfp521は未分化外胚葉から神経前駆細胞へ分化する際に働く転写活性因子であり、神経外胚葉への初発分化段階の制御をp300などとともに行なう役割を持つことが明らかになった。さらにZfp521の機能を理解するために、Zfp521のノックアウトES細胞を作製し、遺伝子破壊マウスの産生に着手した。
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