神経堤細胞は脊椎動物を特徴付ける形質のひとつであり、脊椎動物の体制、特に発達した頭部の進化において神経堤細胞の獲得は重要なステップであったと考えられる。本研究では、神経堤細胞分化に関わるFoxD3に着目し、転写因子のタンパク質の変化と新規の誘導能獲得について、FoxD3に注目して転写因子のタンパク質自体の変化が、神経堤細胞を誘導するという機能の獲得に関わっているかどうかを調べた。その結果、ナメクジウオFoxDのN末領域の40アミノ酸をゼブラフィッシュFoxD3の39アミノ酸と入れ替えたキメラタンパク質が神経堤細胞を誘導する能力をもつことがわかった。脊椎動物の種間で比較的保存性が高いFoxD3のN末の約40アミノ酸の領域が神経堤細胞の誘導するために重要なドメインであることを明らかにした。 さらに、脊椎動物の顎骨の進化プロセスの解明を目指した。顎骨(第1咽頭弓)の発生には上皮でFgf8およびBmp4が第1咽頭弓で発現し、その周辺の神経堤細胞群においてDlx1やMsx1が発現することが知られている。そこで、上記パターニング遺伝子と「第1咽頭弓軟骨になる神経堤細胞で発現するLjSoxE3の発現比較をおこなった。その結果パターニング遺伝子は、LjSoxE3よりも前方で発現が確認された。このことはヤツメウナギの第1咽頭弓領域には、「多くのパターニング遺伝子が発現する前方の神経堤細胞群」と「LjSoxE3が発現し将来の口の骨に分化する後方の神経堤細胞群」の2種類の神経堤細胞群が存在することを示している。また三叉神経枝の第2枝が前方、第3枝が後方の神経堤細胞群へ分布していることからも2種類の神経堤細胞群の存在が支持された。さらにFGFシグナル阻害実験によってもこの仮説が支持される。以上のことより、これまでの仮説をさらに発展させた、顎骨進化プロセスを提案した。
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