研究概要 |
本年度は次の3つの研究課題に取り組んだ。 1.分子進化学的な解析:本年度はヒト特異的偽遺伝子4遺伝子について特に詳細な解析を行った。ヒト特異的であると記載されてきた偽遺伝子のうち、3遺伝子(CYP2G1P,T2P,T3P)が旧世界猿と類人猿の分岐以前に偽遺伝子化していることを明らかにした。更にヒト特異的偽遺伝子であることが明らかになったCYP2G2Pについてその偽遺伝子化の時期を推定すると今からおよそ260万年前と推定された。この時期はホモ属の誕生の時期(250万年前)とほぼ同じ頃であり、CYP2G2Pの偽遺伝子化が、ホモ属にみられる食性や、生活・生業の様式に関連する遺伝的変化である可能性も考えられる。平成22年度には、ヒトゲノム中の他の偽遺伝子及び機能遺伝子について、その分子進化学的な解析を行う。 2.発現解析:本年度は現有しているゴリラ、フクロテナガザルの肝臓サンプルから、RNAを抽出し、cDNAを合成した。また予備的な調査として、このcDNAを鋳型としてヒトの57機能遺伝子について発現を定性的に解析した。その結果、ほとんどのP450遺伝子はゴリラ、フクロテナガザルで発現していたが、個体により発現が確認できなかった遺伝子もあった。これらの発現の確認されなかった遺伝子を中心にmRNAの定量とゲノム配列の確認を平成22年度には行う。 3.集団遺伝学的解析:本年度はCYP2D6遺伝子座のヒト集団での対立遺伝子の配列をデータベースから収集することを中心に行った。この過程で、ヒトCYP2D6遺伝子座に隣接するCYP2D7PやD8Pとの遺伝子変換があることを観察した。平成22年度は、遺伝子変換と多型生成機構との関連を詳しく調べるとともに、チンパンジー、ゴリラ、オラウータン、テナガザル、などヒト以外の霊長類での、CYP2D6遺伝子座での遺伝的多型を解析する。
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