霊長類の苦味受容体について、行動実験と細胞レベルの発現実験を中心に研究を進めた。行動実験についてはTAS2R38とphenylthiocarbamide (PTC)の系を用いて実験条件を整備した。これまでは霊長類を対象とした実験にはリンゴなどを苦味物質を含む溶液に浸したものを与え、拒否反応の程度を評価する方法が主流であったが、定量性に疑問が残った。そこで、マウスなどで広く用いられているtwo bottle testを用いることにより、一塩基多型(SNP)程度の感受性の違いでも検出可能な実験系の構築を行った。この実験系により、様々な濃度のPTCに対するTAS2R38の反応に由来する個体レベルでの忌避反応の定量的なEC50値等が算出できることがわかった。 一方で天然苦味物質によるTAS2Rのリガンド結合実験を続行した。十分に発現量があるTAS2R16とTAS2R38を中心に研究を進めた結果、アミノ酸置換の効果により、受容体の機能が大きく変動することがわかった。 また、これらの遺伝子産物が舌上の味細胞で発現している量を、主に様々な年齢のニホンザル・アカゲザルの試料を用いて検討した。リアルタイムPCR法により、茸状乳頭、有郭乳頭等に存在する味細胞中に含まれるmRNA量を計測して遺伝子産物の発現量を確認した結果、遺伝子型や行動実験との相関があることがわかった。また、ヒト以外の霊長類においても舌以外の様々な臓器で味覚情報伝達に関わるタンパク質が発現していることがわかった。
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