夜間の高照度照明は眠気を防ぐ効果があるが、近年になって人工照明によって引き起こされるメラトニン抑制が交代制勤務者の乳がんのリスクを高める危険性が懸念されている。本年度の実験では、メラトニン抑制作用の強い青色光が網膜の下側に入射するのを選択的に遮断できる赤色バイザーキャップの効果を明らかにするための実験を行った。実験は、サンバイザーをつけない天井照明(白色蛍光灯)のみの条件(顔面照度500lx)に対して、赤バイザーを着用した条件(150~170lx)を設定した。また、光のスペクトルの効果を明らかにするために青色バイザーを装着した条件も加えた。1日目に午後8時から午前3時までDim Light(DL)条件下でメラトニンを測定し、2日目の午後11時から午前3時(合計4時間)まで光曝露を行った。その結果、DL条件に比べてバイザーなし条件では有意にメラトニンが抑制さたが、赤バイザーでは有意なメラトニンの抑制が見られなかった。主観的な覚醒度に関しては、バイザーなし条件と比較して、赤色バイザー着用時に眠気が高まる時間帯があったが、客観的な覚醒度の指標であるヴィジランス課題のラプス(遅延反応の回数)では、バイザーなしと赤色バイザーの間で有意な差はなかった。以上の結果より、光のスペクトルや網膜の照射部位を考慮することで、メラトニンの抑制を防ぎ、光の覚醒効果を維持できる可能性が示された。今回の実験で、青色バイザーと赤色バイザーのデータを直接比較した場合、メラトニンや覚醒度に両条件間で有意な差はなかった。しかし、バイザーなし条件との比較では、赤色バイザーの方がメラトニン抑制を防ぐ作用がすぐに現れ、覚醒を維持できる時間帯も長いことが分かった。
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