研究概要 |
アカザ科作物のテンサイおよびホウレンソウはそれぞれ遺伝的均一化をもたらす自家受精を妨げる仕組として細胞質雄性不稔(CMS)および雌雄異株性を発達させた.本研究では,それぞれの仕組みに注目して,植物における生殖様式の多様性をもたらす機構の解明を試みた. テンサイのOwen型CMSをもたらすタンパク質preSATP6はミトコンドリア内膜でホモ多量体を形成する.本研究では,稔性回復核遺伝子として同定されたRf1の翻訳産物はRF1-preSATP6複合体の形成を通じてpreSATP6ホモ多量体の総量を減少させることによって,花粉稔性回復をもたらしている可能性を示した.さらに,ハマフダンソウを含むテンサイ近縁野生種において,Rf1座は少なくとも16種のアレルが分化していることを明らかにした。Owen CMSとは由来を異にするCMS系統における雄性不稔発現メカニズムの解析と併せて,Rf1座の多様なアレルの進化機構を解析するのが次の課題となる。 ホウレンソウと同じSpinacia属の植物種S. turkestanicaおよびS.tetrandraにおける性型を調査した結果,いずれもホウレンソウと同様に雌雄異株の植物であることを見出した.しかしながら,S.tetrandraの一部のアクセションはホウレンソウおよびS. turkestanicaの雄株が共通して持っているDNA配列(雄特異的DNA)を欠くことが判明した.さらに,このS. turkestanicaアクセションはホウレンソウとは異なる葉緑体ゲノム配列を有することも明らかにした.すなわち,Spinacia属は少なくとも2つのグループによって構成されており,性決定遺伝子座あるいは性染色体の構造が分化している可能性が示された.
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