食糧との競合を回避するために食用作物を対象にエネルギー作物としての利用を可能とし、さらに対象作物の栽培技術体系を大きく変えることなく且つエネルギー作物としての能力を十分に備えエネルギー生産に特化した専用品種の開発が必要となる。本研究では、イネを材料に高度に集積しつつあるゲノム情報を利用し高バイオマスイネの作出の可能性を探るとともに、エネルギー作物として付与されるべき遺伝形質の同定とそれらを育種へ応用するための知見を得ることを目的に研究を推進する。 本年度は、これまでに育成した多数の日印交雑系統を用いてイネのバイオマスを子実及び茎葉重で比較し、バイオマス生産において効果を上げることが期待される素統群を選抜した。また、これらのうち、粘性回復遺伝子(Rf)を有する系統を対象に、別途育成した日本型の雄性不稔(MS)系統を用いてF_1雑種における収量性を調査した結果、いずれの組み合わせにおいても平均的な栽培品種の収量(5t/ha)に対し、約1.4倍以上の値を示すことを確認した。また、これらの高バイオマス生産の成果を食用のF1品種の育成に応用した。 次に、バイオマス収量とエネルギー生産に大きく関わると考えられる稈の性質を改変することを目的として、稈質に関わる突然変異体を用いて稈の細胞壁成分に関する解析を一部共同研究の形で進めた。さらにこの稈質に関わる遺伝子変異を導入した高バイオマスイネを作出するため、先に育成した多収系統との間で戻し交雑作業を進めた。 一方、高バイオマス化に寄与すると考えられる分葉(枝)性に関する遺伝子を同定するため、複数の交雑組み合わせのF2集団を用いて本形質を支配する穂数に関するQTLの検出を試みたが、1組み合わせにおいて第3染色体上に有意なQTLが検出されたが、今回対象とした組み合わせからは他に有意なQTLは検出されなかった。
|