本研究は、パンコムギの直接の祖先野生種で豊富な自然変異を集団中に有するタルホコムギのもつ遺伝子をパンコムギ育種に導入する際に問題となる、雑種致死や雑種弱勢の発生に関与する遺伝子座について、これらに密接に連鎖する分子マーカーの同定を目指すものである。平成24年度は、これまでに引き続き、type IIネクローシスのDゲノムの原因遺伝子であるNet2について、F2集団のサイズを200個体以上としてマップの高密度化を進めた。Net2については緊密に連鎖するSNPマーカーによって2.4cMと3.7cMの距離で挟み込めた。また、type IIネクローシスを示す個体は常温条件下で育て続けるとネクローシスの症状は起こらず矮化と分げつ数の極端な増加を伴うが、この常温と低温下での表現型の著しい違いが、常温条件下のクラウン組織においてマイクロRNAの1つであるmiR156の蓄積量が増し、そのために分げつ抑制に関与するSPL転写因子の発現量が低下することによることが示唆された。さらに、Net2やHch1周辺の分子マーカーをさらに充実させるために、タルホコムギ2系統の幼穂を用いてRNAseq解析を行い、2つの系統間でのSNPを大量に検出した。これらのSNPはマーカーとして連鎖地図上に位置づけることができ、オオムギのゲノム情報とリンクさせることで、Net2やHch1に連鎖したマーカーを推定することが可能となった。
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