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ミトコンドリアから発せられ核遺伝子の発現に影響を及ぼすシグナルはミトコンドリア・レトログレード・シグナル（MRS）と呼ばれる。本研究の目的は、細胞質置換コムギ系統で誘発される 1) pistillody（雄ずいの雌ずい化）および 2) 出穂性改変という2つの現象をモデルケースとし、植物（コムギ）におけるMRSの分子遺伝機構を解明し、育種的利用の可能性を検証することである。
1. pistillody
マイクロアレイ解析により得られたpistillody関連遺伝子候補のカルモジュリン結合タンパク質遺伝子（WCBP1）について、RT-PCRおよびin situハイブリダイゼーションによる詳細な発現解析を行った。その結果、WCBP1が関与するMRSが存在することが示唆された。また、pistillodyの原因ミトコンドリア遺伝子orf260craの機能を調べるため、大腸菌をミトコンドリアのモデルとして、ORF260craタンパク質の細胞内局在や大腸菌の増殖阻害を解析した。その結果、ミトコンドリアにおけるORF260craタンパク質の蓄積がMRSに関係することが示唆された。一方、pistillodyの育種的利用として、これまでに育成した優良PCMS（日長感応性細胞質雄性不稔）系統に花粉親を人工交配して得たF1植物の農業形質調査と特性解析を行った。その結果、優良なハイブリッドコムギ候補を２系統見出した。
2. 出穂性改変
ミトコンドリア原因遺伝子の作用により発現パターンが変化するVRN1遺伝子について、A、B，D各ゲノムに座乗する個々の同祖遺伝子の発現の変化を明らかにした。一方、このMRSを利用したコムギの出穂性の改変の実用性を検討するため、代表的な日本コムギ品種の細胞質置換系統の農業形質調査と特性解析を行った。その結果、北海道品種「春よ恋」の花成遅延系統が品種として有望であることが判明した。
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