近代育種におけるバイオマスの増加は専ら雑種強勢の利用によってもたらされてきたといわれているように、雑種強勢は作物の生産性の向上に重要な意味を持つが、雑種強勢の機構そのものについては未だほとんど分かっていない。昨年同様、熱研2号(ハイプリッドライス用のジャポニカ品種)と伽〓(韓国の改良型インディカ品種)の組み合わせによる組換え近交系に、熱研2号、伽耶をそれぞれ戻し交配する(それぞれの集団を/Nk、/Gaとする)ことで染色体の約半分の領域がヘテロ接合状態にある個体の集団を作り、本研究科付属農場(西東京市)で栽培した。出穂後40~45日目に総バイオマス、収量および各種収量構成要素を測定したF1個体の多収性に関わるQTLとして、第1染色体長腕(穂重)、第3染色体長腕(全般的な乾物生産に関与)、第4染色体長腕(全般的な乾物生産に関与)、第6染色体長腕(穂重に関与)などがあった。ただし、これらのQTLの効果は単純な優性効果であり、ヘテロが熱研2号ホモ及び伽〓ホモの双方より大きな効果を示す、すなわち超優性を示したQTLは見られなかった。なお、熱研2号型あるいは伽耶型のホモが有利となる収量QTLも相当数存在したことは重要である。このことは、ヘテロ領域の比率が高い系統と低い系統の間で収量に明らかな差違が認められなかったこととも符号する。纏めると、ハイブリッドライスの多収性に関わるQTLは主として穂重性や全般的な乾物成長に関わっているとともに、それらは優性効果の集積を通して収量に寄与しているものと推察された。
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