近代育種におけるバイオマスの増加は専ら雑種強勢の利用によってもたらされてきたといわれているように、雑種強勢は作物の生産性の向上に重要な意味を持つが、雑種強勢の機構そのものについては未だほとんど分かっていない。昨年同様、熱研2号(ハイブリッドライス用のジャポニカ品種)と伽椰(韓国の改良型インディカ品種)の組み合わせによる組換え近交系に、熱研2号、伽耶をそれぞれ戻し交配する(それぞれの集団を/Nk、/Gaとする)ことで染色体の約半分の領域をヘテロ接合状態とした個体の集団を対象に、雑種強勢の遺伝解析を行った。当初はバイオマスと収量を主たる調査対象とする予定であったが、福島原発事故に伴う電力不足のために夏場の電力使用ピーク時における乾燥器の使用の見通しが不明となったことから、やむなく調査対象を乾燥処理の不要な草丈に絞って調査を行わざるを得なかった。その結果、バイオマスとは異なり、草丈は少数の遺伝子のエピスタシスによって超優勢が生じるという予想外の結果が得られた。乾物成長の雑種強勢が優性効果の集積によっていることを考えると、この事実は甚だ興味深い。材料育成については、伽耶と健梅矮の組換え近交系が育成できたが、予定していた組換え近交系へのジャポニカ親への戻し交配は、同様に夏場の電力消費ピーク時における温室の運転自粛から、見送らざるを得なかった。そのかわりに、最終年度に予定していたDNA抽出と連鎖地図の作製を前倒しで実施した。育成した組換え近交系とその連鎖地図情報は雑種強勢の解析に限らず収量の遺伝解析への利用価値が高いことから、当該課題の終了時には公開・分譲する予定である
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