近代育種におけるバイオマスの増加は専ら雑種強勢の利用によってもたらされてきたといわれているように、雑種強勢は作物の生産性の向上に重要な意味を持つが、雑種強勢の機構そのものについては未だほとんど分かっていない。熱研2号(ハイプリッドライス用のジャポニカ品種)と伽耶(韓国の改良型インディカ品種)の組み合わせによる組換え近交系に、熱研2号、伽耶をそれぞれ戻し交配する(それぞれの集団を/Nk、/Gaとする)ことで染色体の約半分の領域がヘテロ接合状態にある個体の集団を作り、本研究科付属農場(西東京市)で栽培した。今回はとくに、最高分げつ期のバイオマスと収量性との関連をQTLベースで比較することを主眼とした。その結果、最高分げつ期のバイオマスもこれまでの収量構成要素と同様に、QTLの効果は単純な優性効果であり、ヘテロが熱研2号ホモ及び伽耶ホモの双方より大きな効果を示す、すなわち超優性を示したQTLは見られなかった。このことは、ハイブリッドライスのもつ生産性を、雑種一代ではなく、固定品種として利用できる可能性を示唆するものと考えられる。しかし、予想に反して、最高分げつ期のバイオマスQTLと収量のQTLとで共通のQTLが見出されることはむしろ例外的であった。本マッピング集団は従来の集団に較べると不稔や穂の奇形が驚くほど少ないものではあるが、本集団の収量性がヘテロシスよりもむしろ穂のサイズの変異に強く規定されている可能性についてもさらなる検討が必要であると考えられた。
|