研究概要 |
チガヤの普通型は東北南部から沖縄県の水田畦畔や路傍、芝地、果樹園などに広く生育し、早生型は北海道から九州の河川敷などやや湿った生育地に局所的に分布している。普通型が侵略的な特性をもつのに対し、早生型の生育地は限られている。温暖化にともない普通型の分布域が北上し、新たな雑草害が生じ、さらに、従来から分布している早生型との雑種形成による新たな雑草害が懸念される。本年度は、チガヤの普通型と早生型の雑種の適応度を評価するために、平成21年に育成した普通型と早生型の正逆人為雑種の根茎から萌芽したシュートを用いて雑種の適応度を両親と比較した。早生型がやや湿った生育地に分布していることから、7号素焼き鉢を圃場で栽培する区と素焼き鉢を堪水した大型容器に沈め、土壌含水率を常に高く保った区とを設けた。両親、その正逆雑種個体54系統について乾物生産量を比較したところ、普通型は圃場設置区で高い乾物生産量を示し、早生型は堪水区で高い乾物生産量を示した。雑種は、正逆にかかわらず、両親よりも高い乾物生産量を示す系統あるいは低い乾物生産量を示す系統もあったが、大部分は両親の中間に位置した。GOTおよび平成21年に開発したマイクロサテライトマーカー(Maeda et a1., 2009)を用い、1980年代初めに採集し、現在まで系統維持している個体を普通型、早生型および雑種に類別した。東北で採集した系統の中に雑種が見いだされたが、その他の地域由来の系統の中に雑種は存在しなかった。本年度、新たに東北北部でチガヤを採集し、普通型、早生型および雑種に類別した結果、これらの個体の大部分が雑種であることが明らかになり、約30年の間に雑種の分布域が北上、拡大していることが推定された。
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