研究概要 |
今年度,人工気象室環境下において水稲に高温・寡照および低寡照・高温乾燥風の複合環境ストレスを付与し,高頻度に乳白粒の発生を有意に誘導する実験系を組んでいる。ポット栽培の水稲を用い,出穂後に上記の複合ストレスを付与しプレッシャーチャンバー法で組織レベルの水分状態計測および光合成計測と,セルプレッシャープローブ法で胚乳細胞の水分状態の解析を行い,後述するように白濁化する特定層の胚乳細胞の膨圧,糖代謝の変化を捉えるための手法を確立させている。 生長中の玄米の膨圧計測のターゲットは,将来白濁リングが形成されることが推定される表皮から約400-500μmの胚乳細胞層であり,これを中心とした200-800μmの領域で空間的,かつ経時的な膨圧変化を追跡した。また,環境ストレス下における稲体において光合成および組織レベルの水分状態計測を並行して行うことで,組織・細胞レベルの両面から玄米の品質低下が誘導される要因に関して新しい知見が集積し始めている。 また,膨圧計測後の胚乳細胞からピコリットルオーダーの細胞溶液を抽出する細胞溶液抽出法のテストに取り組んでおり,これに質量分析手法を組み合わせることで微量細胞溶液の糖分子種分析が可能であることを確認した。さらに安定同位体トレーサー実験に本手法を応用することで,細胞・分子レベルで安定同位体の微量分析が可能であることを確認した。改良するセルプレッシャープローブ法ともに,以上の手法を合わせることにより,細胞・分子情報に基づいて乳白粒発生の機構を明らかにできる見込みであり,これら一連の手法は最新の細胞生理計測技術として将来的な応用も期待できる。
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