研究概要 |
近年,地球温暖化に伴う夏季の異常高温により水稲の登熟障害が発生しており,その生理的メカニズムの解明が求められている.本研究では、ここ数年で複数の事例が認められる高温乾燥風による乳白粒の発生に注目したが、このような拡大中の胚乳の細胞レベルで起こる白濁化のメカニズムを解明するためには、ストレス下で生長する胚乳細胞において行う非破壊水分状態計測が有効な方法と考えられる.そのような細胞計測を可能にするために,既存のセルプレッシャープローブのガラス管固定部にピエゾマニュピレータを搭載し胚乳組織内の深度を自動計測した上で,細胞計測のための作業空間を確保するべく鉛直方向に長作動距離のデジタルマイクロスコープを設置し,細胞計測の省力化を図った.このセルプレッシャープローブシステムを用いてストレス条件下の胚乳細胞の水分状態(膨圧)を計測するとともに,光合成計測等の生理解析とを組み合わせ,乳白粒発生に至る綿胞水分状態を断続的に計測した.また,ポンプアッププレッシャーチャンバーと等圧式サイクロメーター法による測定を並行して行うことで,登熟中期の穂の水ポテンシャルと種子の水ポテンシャルの間に高い相関関係を認めた上で,胚乳細胞の膨圧変化から,胚乳の浸透ポテンシャルを求めた.その結果,高温乾燥風による水ストレス条件下で透圧調節機能を介した新たな乳白粒発生メカニズムが見出された.本実験では炭素安定同位体トレーサー解析を行うことで,軽度の水ストレス条件下では止葉から穂(玄米)への転流が阻害されることなく,浸透調節の発現により一時的に澱粉集積が阻害されるものの,玄米の最終粒重は減少しないことが明らかになった.一方,メニスカス自動制御によるセルプレッシャープローブについても海外共同研究機関と協力して改良を進め,高等植物の表皮細胞を対象とした実証試験を終えた.
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