本研究課題はクリにおけるゲノムレベルの基礎的知見の獲得とゲノム研究基盤の整備を目指している.これまでにニホングリとモーパングリの種間雑種の遺伝学的連鎖地図を構築し,樹体の初期生育や形態に関わる諸形質を複数年に渡って評価し,それらのQTLを検出した.また,近縁種や近縁樹木種で報告されている連鎖地図上のQTLとの対応関係を推定するために,ヨーロッパグリやブナ科樹木の連鎖地図に座乗するSSRマーカーがニホングリにおいても利用可能であるか否か検討した.さらに,生育や形態に関わる諸形質について年次変動の調査を継続するとともに,果肉糖度や渋皮剥皮性等の堅果諸形質についても調査を開始した.一方,花成関連遺伝子であるAP1,FTおよびそのレセプター活性が報告されている14-3-3遺伝子のホモログをクローニングした.本年度は,これまでの結果を踏まえて,開花特性および堅果の諸形質について複数年のデータに基づいて,その特性や分離様式を評価し年次間における変動を評価した.開花特性および堅果形質ともに,種間雑種において大きな変異が存在し,それらはQTLの特徴である連続的な変異を示した.また,果肉のBrix糖度と渋皮剥皮性の間には相関がなかったことから,それぞれ別の遺伝子に制御されており,独立に遺伝することが明らかになった.一方,ヨーロッパグリ連鎖地図との対応関係を評価した結果,今回検出されたQTL座のうち,生育初期の樹高に関するQTLがヨーロッパグリの樹高を制御するQTLと同一の連鎖群に座乗することを明らかとした.
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