真核生物を宿主とするプラス鎖RNAウイルスは、オルガネラ膜上に、ウイルスがコードする複製タンパク質および宿主タンパク質からなる複製複合体を形成し、その中で子孫RNAを複製する。プラス鎖RNAウイルスの一種であるトマトモザイクウイルス(ToMV)の複製には宿主因子TOM1(7回膜貫通型タンパク質)およびARL8(低分子量GTP結合タンパク質)が必要である。平成21年度までに、複製複合体形成がどのような中間段階を経て形成されるかを解析する準備として、TOM1およびそのホモログであるTOM3を欠損したシロイヌナズナ、ARL8の3個のホモログを欠損したシロイヌナズナ、および野生型株シロイヌナズナから液体培養細胞を樹立した。本年度はシロイヌナズナ培養細胞から得た生体膜を用いて試験管内でToMV RNAの複製を行わせる系を確立し、TOM1あるいはARL8遺伝子が欠損してToMV RNAの増殖が起きなくなったシロイヌナズナ培養細胞から得た生体膜を用いた反応ではマイナス鎖RNA合成が起きないことを見いだした。 このことからTOM1とARL8はマイナス鎖合成が起きる前の段階で複製タンパク質に作用していることが示唆された。また、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて130Kタンパク質を発現させる実験系を確立し、本年度は、TOM1とARL8の共発現が、複製タンパク質のGMP化およびRNAキャッピング能を活性化することを示す結果を得た。
|