RNAサイレンシングは、植物がウイルスに対して示す主要な防御反応のひとつであり、Argonauteタンパク質とsmall interfering RNA(siRNA)を中核として形成されるRNA-induced silencing complex(RISC)により作動する。一方、ウイルスは、自身がコードするRNAサイレンシングサプレッサーの働きによりRNAサイレンシングを抑制し、増殖を遂げる。RNAサイレンシングの誘起とその抑制の分子機構の解析基盤を構築するため、本年度はRISC形成機構を解析した。脱液胞化したタバコBY-2プロトプラスト抽出液中でAGO1タンパク質を対応するmRNAの翻訳反応により合成し、そこに2'-O-メチル化した22ヌクレオチドの2本鎖(ds)siRNAを添加すると、そのうちの一方の鎖(ガイド鎖)を捕捉したAGO1タンパク質複合体が形成された。この複合体は、ガイド鎖と相補的な配列をもつRNAに特異的に結合し切断する活性、すなわちRISC活性を有していた。エンドヌクレアーゼ活性を失った変異AGO1タンパク質はds-siRNAを取り込んだが、1本鎖化できなかったことから、パッセンジャー鎖の除去はその切断を介して起きることが示唆された。さらに、熱ショックタンパク質HSP90の特異的阻害剤であるゲルダナマイシンがRISC形成を阻害すること、ATPアナログ存在下でHSP90-AGO1-ds-siRNA複合体が蓄積することを見いだした。このことから、RISC形成に分子シャペロンであるHSP90が関与していることが示唆された。
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