RNAサイレンシングは、植物がウイルスに対して示す主要な防御反応のひとつである。本研究では、RNAサイレンシングにおいて標的の認識にかかわるRISC(RNA-induced silencing complex)の形成機構、および、トマトモザイクウイルス130Kタンパク質によるRISC形成阻害機構を解明することを目的として研究を進めた。我々は、脱液胞化タバコBY-2プロトプラスト抽出液(BYL)中でAGO1 mRNAを翻訳し、2本鎖small interfering RNA(siRNA)を添加するとRISCが形成されることを明らかにしていた。本年度までに、この試験管内RISC形成反応において、新生AGO1タンパク質が、ATPをもったHSP90に結合した状態で2本鎖siRNAをとりこみ、HSP90によるATPの加水分解をきっかけに2本鎖siRNAを1本鎖化して、保持した1本鎖siRNAと相補的なRNAを切断する活性を獲得することを明らかにした。難加水分解性ATP類縁体であるATP-γSを添加すると、AGO1とHSP90が結合した状態の複合体が形成された。さらに、この複合体にいくつかのHSP90コシャペロンが含まれていることを見いだし、それらのうちの一つにRISC形成促進能があることを見いだした。また、BYLを用いた試験管内翻訳反応で合成した130Kタンパク質(RNAサイレンシングサプレッサー)を添加することにより、RISC形成が阻害されることを示唆する予備的な結果を得た。
|