カイコガ幼虫前部絹糸腺は、20-hydroxyecdysone(20E)のgenomic及びnongenomic作用により、細胞死が完了する。また、吐糸期前日までの前部絹糸腺は細胞死抑制因子を分泌し、早期の細胞死を抑制している。本年度は、抑制因子の精製を行い、同定することに成功した。5齢摂食期の前部絹糸腺を培養した培養液を回収し、これを培養上清として用い、20Eを加えてV7幼虫の前部絹糸腺を培養すると、V7の前部絹糸腺の予定細胞死は起こらなかった。そこで、この予定細胞死抑制因子の特性を調べるためにCMに熱処理、タンパク質分解酵素処理、有機溶媒処理を行ったところタンパク性の物質と非タンパク性の物質の両者が細胞死抑制活性をもつことが示唆された。 細胞死抑制活性をもつタンパク性の物質に着目し、特性を調べた。この物質は60℃の熱処理、タンパク質分解酵素であるトリプシンやプロテイナーゼKによる処理、30%メタノール処理で活性を失い、ゲルろ過クロマトグラフィーによる推定分子量では約440KDa~669KDaを示した。30kDa限外濾過、Mono Qカラム、Superdex 200によるゲル濾過後、6% SDS-PAGEにより約80kDaのバンドを得、MALDI-TOF MS分析を行った。得られた配列は、グルコース酸化酵素のアミノ酸配列と部分的に一致した。 カビのグルコース酸化酵素標品を用いて、前部絹糸腺の予定細胞死の抑制活性を調べたところ、活性を有していた。したがって、タンパク性の細胞死抑制因子の一つは、グルコース酸化酵素であることが示唆された。今後、大量発現系により、カイコガ・グルコース酸化酵素標品を得、予定細胞死の抑制活性を検討する。
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