研究概要 |
トビイロウンカとセジロウンカ(以下トビイロ,セジロ)を東アジア(日本,台湾,中国,ベトナム北部),インドシナ南部(ベトナム南部とカンボジア)とフィリピンで採集し,薬剤感受性を調べた。トビイロのイミダクロプリドに対する50%致死量はインドシナ南部で最大で,次いで東アジアで高かったが,フィリピンでは低かった。セジロはアジア全域でフィプロニルに対して感受性が低下していた。 ウンカ類の地域系統識別と移動性調査に利用するため,遺伝子塩基配列を解析し,トビイロ31系統,セジロ25系統についてミトコンドリア遺伝子のCOI-COII領域の約1900bpの配列を決定した。トビイロで30,セジロで20のハプロタイプを認めたが,系統ごとの特徴的な配列は少なく,ミトコンドリア配列のみで地域個体群の特徴を抽出することは困難であった。トビイロでは,東南アジアのうちパプアニューギニアとフィリピンの一部地域で遺伝的近縁度が離れていた。また,ウンカ寄生ネジレバネのリボソームRNAのITS領域とミトコンドリア遺伝子配列解析から,少なくとも3種類のネジレバネ系統を識別できた。 ネオニコチノイドの標的ニコチン性アセチルコリン受容体でY151S変異が生じると,ジノテフランを除くネオニコチノイドに対して受容体が低感受性になるが,その原因は不明である。そこでニコチン性アセチルコリン受容体に相同性があるアセチルコリン結合蛋白質-イミダクロプリド複合体の結晶構造をもとにTyr151Ser変異の受容体に対する影響を計算した結果,当該変異によってTrp149の自由度が高まりネオニコチノイドとの相互作用が弱まるこがわかった。 ウンカ類のアジア広域移動の解明のため,台湾東部のライトトラップを用いたトビイロとセジロのモニタリングと後退軌道解析を行った。フィリピンから台湾東部へ飛来侵入したと推定される事例が2007~09年の3年間で4例あった。いずれの事例も,台風などによりフィリピンから強風が吹いていた。
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