研究概要 |
植物遺体のモデル物質として^<13>Cで標識したカルス風乾物、さらに水稲根冠細胞のモデル物質として^<13>Cで標識したカルス新鮮物を供試して、これら風乾物、新鮮カルスを土壌に添加し、分解に伴うファージの構造遺伝子g20,g23への取り込みを試験した。使用したg20遺伝子に特異的なプライマーは藍藻に感染するファージに特異的と言われてきた。しかし、試験の結果、藍藻への^<13>Cの取り込みが観察されなかったにもかかわらず、g20遺伝子への風乾物由来^<13>Cの取り込みが観察されたことより、観察されたg20遺伝子は藍藻以外の細菌に感染するファージに由来するものと推察された。加えて、新鮮カルス由来の^<13>Cで標識されたカプシド遺伝子g20が多数得られた。以上の結果より、カルス風乾物、新鮮カルスに由来する^<13>Cが土壌中で様々の細菌群集により分解され、分解に伴って増殖した細菌群集の一部はファージにより死滅-させられていることが明らかとなった。これまで、細菌群集を起点とする土壌中での食物連鎖(炭素循環)において、細菌群集-(ファージの感染)-細胞物質-細菌群集間の微生物循環は明らかでなかった。本研究は、土壌中でも微生物循環が駆動していることを始めて証明したものとなった。 環境中の細菌群集の死滅の一部は、溶菌性ファージの感染によるものと考えられており、昨年度水田土壌中の細菌群集の一部もまた溶菌性ファージによって感染されていることをTEMにより明らかにするとともに、その感染率が海洋に比べて高いことを見出した。しかし、TEM観察による感染の有無の判断は研究者により異なることから、水田圃場で表面水とその下の土壌を同時に採取し感染率を比較した。その結果、感染率は、表面水中の細菌群集に比べて土壌中の細菌群集で有意に高いことが明らかになり、昨年度の推定「土壌中は水界に比べて細菌群集へのファージの感染率が高い」が証明された。
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