高地温が植物の葉の低温障害を助長するというこれまで全く知られていなかった現象の発生機構を明らかにする目的で、3葉期のイネ幼苗を用いて以下の様な研究を行った。 低温下における光合成機能の比較解析:これまでに得た結果から、高地温・低気温では、光化学系IIとIの間で電子伝達が遮断され、非循環的電子伝達と循環的電子伝達の両方が機能しなくなり、チラコイド膜内外の水素イオン濃度勾配(△pH)が消滅し、△pHに依存した熱放散能力(熱放散に必要なzeaxanthinの再生能力)を喪失することが、高地温依存性低温障害の原因であると考えた。その検証の一環として、光合成解析装置(Dual-PAM)に新規購入のP515/535モジュールを接続して、暗黒下で低温処理中に葉に20分間光を当てて解析し、低地温・低気温では△pHが維持されzeaxanthin生成が著しく高まるのに対し、高地温・低気温ではいずれもほとんど消失することを示した。 硝酸等の葉への転流に及ぼす高地温・低気温の影響:低温処理中の葉、根および水耕液における、無機イオンおよびアミノ酸の変動を調べたところ、低地温・低気温では根から葉へのいずれの転流も認められず、葉ではNO_3^-はほとんど、NO_2^-は全く検出できなかった。一方、高地温・低気温では25℃の場合と同様の転流が認められた。高地温・低気温の葉ではNO_3^-の特異的な蓄積が葉に起こり、高地温・低気温の葉でのみNO_2^-が検出された。そのNO_2^-の変動パターンが、クロロフィル蛍光パラメータの一つ"Excess"の変動パターンと酷似していた。これは光化学系IIにおける過剰エネルギー蓄積を示すとされるパラメータであり、高地温依存性の低温障害における、電子伝達障害とNO_2^-の密接な関係が示唆される。 植物ホルモン等の関与:植物ホルモンの関与の可能性は低いと判断し、今年度はその検討は見送った。
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