高地温依存の低温障害は、水耕液が硝酸を含む時に起こる(21年度)。しかし硝酸飢餓の幼苗を気温10℃+地温25℃処理(L/H処理)すると、より顕著な障害が起こることがわかった。このような条件では、高親和性硝酸輸送体の誘導等により、L/Hに特異な葉への硝酸蓄積(21年度)がさらに促進されるためと考える。 L/H処理を24時間行うと光化学系IIのQ_AからQ_Bへの電子伝達が完全に遮断される(22年度)。しかし、その葉から単離したチラコイド膜の電子伝達機能は低下しなかった。またその葉から抽出した光化学系構成タンパク質、およびその複合体の構成等に変化はなかった。そこに5時間程度光を当てると、単離チラコイド膜の光化学系IIの電子伝達機能が著しく低下し、抽出液中にCP43の欠如した光化学系H複合体が増加した。またCyt b_<559>のβサブユニットの欠落も認められた。L/L処理ではこのような変化はなかった。これらのことからL/H処理を24時間行った場合のQ_AからQ_Bへの電子伝達の遮断は、光化学系IIと硝酸や亜硝酸の可逆的な相互作用によるものと考えられる。またその後の光に依存した光化学系Hのin vitro活性の失活も、タンパク質の分解や複合体の解離等を伴わない光化学系H複合体の不可逆的失活の結果と考える。 3年間の結果から、L/H処理では、低温の葉に蓄積した硝酸や亜硝酸と光化学系II複合体の間の直接あるいは間接的な作用により光化学系IIのQ_AからQ_Bへの電子伝達が完全に遮断され、その結果、熱放散(活性酸素消去系)が機能しなくなると共に光化学系IIが過剰還元状態となり、活性酸素や過酸化脂肪を生じ、これによりチラコイド膜、葉緑体包膜、細胞膜等の生体膜が破壊され、葉の枯死に至ると考えられる。葉への硝酸や亜硝酸の蓄積と光化学系IIの電子伝達遮断の関係は今後の課題である。その後の光に依存した光化学系II複合体の変化は電子伝達のin vitro活性の失活の原因としては小さいため、チラコイド膜損傷の結果と考える。
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