研究概要 |
カビAspergillus nidulansを好気条件から低酸素条件に移すことによって、細胞内のNADH/NAD+比が大きくなるが、このとき、NAD+とNADHの絶対量も減少する。本研究では、低酸素条件下におけるNADHの分解に関わる酵素を探索し、その役割について検討した。近年、NADHの加水分解酵素としてNudix hydrolase(NUDT)が報告されている。A.nidulansのゲノム中に見出される12種のNudix hydrolase(AnNUDT)遺伝子の中から、AnNUDT1,2,3を選抜しそれらの組換え蛋白質を調製し検討したところ、AtNUDT1,3がNADHを加水分解できた。AnNUDT1,2,3遺伝子の遺伝子破壊株を作製し、これらと野生株を低酸素条件下で培養したところ、AnNUDT1の遺伝子破壌株では、野生株の36%の細胞内NADH hydrolase活性を示した。また、細胞内のNAD+量はすべての株で同程度であったのに対して、AnNUDT1の遺伝子破壊によりNADHが増加したことから、AnNUDT1が低酸素条件下でのNADHの分解に関わることが示された。一方、Aspergillus nidulansのNmrAは窒素代謝の制御に関わる転写抑制因子として知られる。近年、NmrAはShort-chain dehydrogenase/reductase familyに属し、NAD(P)Hに比べNAD(P)^+に高い親和性を示すことが明らかとなった。しかしながら、NmrAが有する上記の特徴と生体内での機能との関連性は見出されていない。我々は、様々なストレス条件下でのNmrA遺伝子破壊株(DnmrA株)の生育を観察したところ、野生株に比べDnmrA株の生育がメナジオン(MD)により強く阻害されることがわかった。また、MD存在時、DnmrA株では野生株に比べ、glucose-6-phosphate dehydrogenaseおよび6-phosphogluconate dehydrogenaseの発現量が少なかった。これより、NmrAはペントースリン酸回路を介したNADPHの生産およびMD耐性に関与すると考えられた。
|