本研究では真菌が低酸素条件に応答・適応し生存する際に発現する酸素以外の代替電子受容体の利用メカニズム、核酸・糖代謝の改変による細胞内化合物の在庫整理、オルガネラ機能の調節、代謝のスローダウン、呼吸・発酵副産物に対する防御機構に関する個々の研究を分子生物学およびオミクスの手法を用いて推し進め、真菌の低酸素応答・適応・生存戦略の分子機構の全体像を解明することを目的とする。このために、モデル真菌Aspergillus nidulansを題材として以下の研究を行い成果を得た。 1.これまで、カビを含む真核生物では細胞外電子シャトルの報告はなく興味深い。細胞内の電子がグルタチオン系を介して細胞外硫黄へとシャトルされることを発見した。また、 この際、可溶性のpolysulfideが電子の媒介をすることを明らかとした。 2.チアミン生合成に必須であるThiAは、未同定のペントースなどを基質にしてチアミン前駆体であるthiazoleの合成に寄与する。A. nidulansのThiAがチアミン生合成に必須であること、さらに低酸素条件下でThiAが高発現することを見出した。 3.低酸素応答に関するトランスクリプトーム解析を行った。さらに、A. oryzaeについても同様の解析を行い、これら近縁の2種の真菌の低酸素応答の比較トランスクリプトームを明らかとした。
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