シグナル物質とその作用については実際に詳しく検証されているのは、P. aeruginosaやV. fescheriなどのすでに単離され純粋培養できるバクテリアのみであり、活性汚泥やメタン発酵汚泥のように大部分が単離培養不可能なバクテリアが占める複合系におけるシグナル物質の働きは詳細に分かっていない。しかしながら、複合系においても多くのグラム陰性菌、陽性菌でシグナル物質によるコミュニケーションは存在し、その作用は共通に起きうることが予想される。例えば、活性汚泥から単離された細菌においてAHLと類似した構造を持つ物質の生産が観察されており、化学合成されたシグナル物質を添加すると微生物相が変化し、フェノール分解が安定的に維持されたとの報告がある。 そこで、当研究室では活性汚泥において細胞間シグナル物質が硝化活性に与える影響を検討し、硝化細菌群の浄化機能の効率化を目指し23年度は研究を進めた。本研究はシグナル物質による目的菌種の特異的活性化という複合系の制御法の新たな方向性を示すものとなるのに加え、複合系における細胞間シグナル物質の働きを理解するうえで重要な考察要素となり得ると考えられる。 シグナル物質が硝化活性に与える影響を調べるために、まず初めにシグナル物質の検討を行った。AHLを中心に様々なシグナル物質を活性汚泥に添加し硝化活性を検討したところ、コントロールとAHLの一種を添加した系において培養開始4日後のアンモニア濃度に差が見られた。さらに、アンモニア酸化の産物である亜硝酸が、シグナル物質を添加するとコントロールに比べて高濃度で蓄積するという結果も得られている。つまり、硝化細菌群に対し直接または間接的にシグナル物質が影響を及ぼし、アンモニア酸化反応を促進させたことが示唆された。
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