研究概要 |
真菌の細胞に必須な細胞壁多糖β-1,6-グルカンの生合成機構を明らかにするため、小胞体(ER)の必須遺伝子産物Keg1と結合し、かつβ-1,6-グルカン合成に必須で、多糖分解酵素と相同性をもつ、Kre6とSkn1を調べた。昨年度、多くのKre6はERにあるが、一部が出芽部の細胞質膜(PM)に存在し、Kre6変異体の解析からこのPMへの局在が活性に必須なことを明らかにした。本年度、温度感受性Keg1-1変異株で、Keg1とKre6の結合が低下し、Kre6がERのタンパク質品質管理機構ERADで分解され易くなること、この分解だけ防いでもKre6は芽のPMに局在できないことを示した。また真核生物ERで広くタンパク質の高次構造形成に働く、カルネキシンサイクルを構成する4タンパク質の酵母相同体(Cwh41,Rot2,Kre5,Cne1)の変異株でも、β-1,6-グルカン量の低下が知られていたが、Keg1がKre5及びCne1と結合し、Kre6はKeg1及びCne1に結合した。Δcne1破壊株でもKre6が芽PMに集積できなくなることから、ERのKre6が正しい高次構造を形成して芽のPMに移行し機能を発揮するために、複数のERのシャペロン様タンパク質が働く必要があると考えられる。Kre6とSkn1を両方失った細胞は致死的で、両者はタンパク質問相互作用や局在もほぼ同等だった。Keg1には更に別の膜タンパク質が結合していることも分かり、UDP-[14C]グルコースと膜透過性化細胞或いは膜小胞画分を使った無細胞系で、膜に結合した低分子量のグルカン前駆体と予想される物質の合成にも成功した。具体的な場所も不明であったβ-1,6-グルカン合成が、ERでの前駆体生成とPMへの移行・成熟化、即ち酵素反応と小胞輸送の共役からなることを示した本研究成果は、真菌の細胞生物学で重要な意義をもつ。
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